使えば使うほど味が出る。革が育つ秘密について
投稿日: 投稿者:仙入寛章
皆さま、こんにちは。
新進工房の仙入寛章です。
今日は、革製品が好きな方なら一度は聞いたことがある言葉、「使えば使うほど味が出る」という話をしたいと思います。
革の財布やバッグを使っていると、最初は少し硬かった革が手になじんできたり、色に深みが出てきたり、表面に自然なツヤが生まれてきたりします。
新品の時のきれいさももちろん魅力的です。
でも、本革の面白いところは、そこがゴールではないことです。
使い始めた瞬間から、少しずつ自分だけの表情に変わっていきます。
今日は、その「革が育つ秘密」について、できるだけ分かりやすくお話しします。
革は、使う人の暮らしを少しずつ記憶します
革の経年変化は、ただ古くなることではありません。
使う人の手の油分、空気、光、摩擦、湿度。
そうした日々の小さな出来事が、少しずつ革の表情を変えていきます。
たとえば財布なら、毎日手で持つ部分に自然なツヤが出てきます。
バッグなら、よく触れるハンドル部分の色が少し濃くなったり、肩に当たる部分が柔らかくなったりします。
同じ革、同じ色、同じ形の作品でも、使う人が変われば育ち方も変わります。
机の上に置かれる時間が長い人。
毎日ポケットに入れて持ち歩く人。
雨の日も晴れの日もバッグを使う人。
それぞれの暮らしが、革に少しずつ刻まれていきます。
だから革製品は、長く使うほど「自分のもの」になっていくのだと思います。
ツヤが出る理由
革を使っていると、表面に自然なツヤが出てきます。
これは、手で触れることによって革の表面が磨かれたり、手の油分が少しずつ革になじんだりするためです。
もちろん、革の種類や仕上げ方によってツヤの出方は違います。
最初から光沢のある革もあれば、使い込むことでじわじわとツヤが増していく革もあります。
革の表面に細かな凹凸がある場合、その凹凸が日々の摩擦で少しずつ整い、光を反射しやすくなることがあります。
それが、使い込んだ革特有のしっとりとしたツヤにつながります。
新品の革のツヤは、きれいに整えられたツヤです。
一方で、使い込んだ革のツヤは、時間が作ったツヤです。
どちらが良いというより、楽しみ方が違うのだと思います。
色が深くなる理由
革は使っていくうちに、色が濃くなったり、深みが出たりすることがあります。
これは、手の油分や空気中の水分、光の影響などによって、革の内部や表面の状態が少しずつ変化するためです。
特に、染料で仕上げられた革や、植物タンニン鞣しの革は、経年変化が分かりやすいことがあります。
明るい色の革ほど、色の変化は感じやすいです。
ベージュやキャメル、ナチュラル系の革は、使うほどに飴色へ近づいていくことがあります。
最初は少し明るく見えていた革が、時間とともに落ち着いた雰囲気になっていく。
その変化を見るのも、本革を使う楽しみの一つです。
ただし、色の変化は必ずしも均一ではありません。
よく触れる場所、よくこすれる場所、光が当たりやすい場所。
それぞれで変化の仕方が違います。
そのムラも含めて、革の個性だと思っています。
柔らかくなって手になじむ理由
新品の革製品は、少し硬く感じることがあります。
これは革の繊維がまだしっかりと締まっていて、形も新品の状態に整っているためです。
使っていくうちに、曲げたり、持ったり、開け閉めしたりする動きによって、革の繊維が少しずつほぐれていきます。
すると、最初は硬かった財布が開きやすくなったり、バッグのハンドルが手になじみやすくなったりします。
これも、革が劣化しているのではなく、使う人の動きに合わせてなじんできている状態です。
革靴が履く人の足に少しずつなじんでいくのと似ています。
最初は少しよそよそしかった革が、時間をかけて自分の手に合ってくる。
この感覚は、本革ならではの魅力だと思います。
傷も、革の表情になることがあります
本革を使っていると、小さな傷が付くことがあります。
これは避けられない部分でもあります。
爪が当たったり、鍵と一緒にバッグの中に入れたり、机に置いた時にこすれたり。
日常の中には、革に小さな跡が残る場面がたくさんあります。
もちろん、大きな傷や深い傷はできるだけ避けたいです。
でも、小さな傷の中には、使い込むうちに周囲となじんで、革の表情の一部になっていくものもあります。
特に、オイルを含んだ革や、経年変化しやすい革は、傷が時間とともに目立ちにくくなったり、味わいとして残ったりすることがあります。
新品の時は少し気になった傷も、数年後にはその革らしさになっていることがあります。
革製品は、傷ひとつない状態をずっと保つものというより、使いながら自分だけの表情を作っていくものなのかもしれません。
ただし、すべての革が同じように育つわけではありません
ここで大切なのは、すべての革が同じように経年変化するわけではないということです。
革には、さまざまな種類があります。
植物タンニン鞣しの革。
クロム鞣しの革。
顔料仕上げの革。
染料仕上げの革。
シュリンクレザー、スムースレザー、コードバン、ヌメ革。
それぞれ、経年変化の仕方は違います。
たとえば、ヌメ革のように色の変化が大きい革もあれば、顔料でしっかり仕上げられた革のように、比較的変化が穏やかな革もあります。
傷が目立ちにくい革もあれば、傷が入りやすいけれど、その傷も含めて味になる革もあります。
つまり、革の経年変化には正解がありません。
「大きく変わる革が良い革」というわけでもありません。
あまり変化せず、きれいな状態を長く保ちやすい革にも魅力があります。
大切なのは、自分の使い方や好みに合った革を選ぶことです。
良い経年変化のために大切なこと
革を良い雰囲気で育てるためには、難しいことをたくさんする必要はありません。
まず大切なのは、できるだけ毎日普通に使うことです。
革は、使われることで少しずつなじんでいきます。
大切にしすぎてずっと箱の中にしまっておくよりも、日々の暮らしの中で使っていただく方が、自然な表情になっていきます。
ただし、水濡れには注意が必要です。
革は水を吸うと、シミになったり、乾いた後に硬くなったりすることがあります。
雨の日に使う場合は、濡れたまま放置せず、乾いた柔らかい布でやさしく水分を拭き取ってください。
その後は、風通しの良い日陰で自然に乾かすのがおすすめです。
ドライヤーなどの強い熱を当てると、革が傷む原因になることがあります。
また、乾燥が気になる時は、革の種類に合ったクリームを薄く塗ることで、しっとり感を保ちやすくなります。
ただし、クリームを塗りすぎるとシミやベタつきの原因になることもあります。
革のお手入れは、やりすぎないことも大切です。
革は、時間と一緒に育つ素材です
革の魅力は、完成した瞬間だけで終わらないところにあります。
新品の時は、職人が仕上げた美しさがあります。
そして使い始めてからは、使う人の暮らしが少しずつ加わっていきます。
手で触れた跡。
持ち歩いた時間。
日々の小さな傷。
少しずつ増していくツヤ。
それらが重なって、革はその人だけの表情へ変わっていきます。
革製品を長く使うということは、ただ物を長持ちさせるということだけではありません。
時間をかけて、自分だけの作品に育てていくことでもあります。
最後に
「使えば使うほど味が出る。」
この言葉は、革製品の魅力をとてもよく表していると思います。
新品の美しさ。
使い込んだ後の深み。
そのどちらも、本革の魅力です。
最初から完璧な状態をずっと保つのではなく、少しずつ変わっていくことを楽しむ。
その楽しみ方ができるのが、革という素材の面白さだと思います。
新進工房では、皆さまの日々の暮らしの中で、長く使っていただける革作品をこれからも作っていきたいと思っています。
ぜひ、お手元の財布やバッグも、今日から少し違った目線で見てみてください。
きっと、その革だけの表情が少しずつ育っているはずです。


